睡眠の深さと脳の活動

 睡眠にはその深さに応じて4段階に分けられ、普通の人では周期的に浅い睡眠から深い睡眠に段階的に一晩に数回繰り返しまnou5す。もっとも浅い睡眠はREM睡眠と呼ばれ、寝ているにもかかわらず目がキョロキョロ動くので、夢を見ていると考えられてきました。ところが、REM睡眠時以外の深い睡眠の時にも夢を見ていることが次第に明らかになってきました。しかし夢といっても浅い睡眠の時に見る、ストーリーがはっきりした、時には荒唐無稽な夢とは違って、単純な行動や状況、更に睡眠の深度が深くなると漠然としたイメージのようなものになるようです。これらは一般的な夢の定義からいって夢とはいえるようなものではないかもしれませんが、睡眠中の脳の働きからすると原理的には同じ仕組みで浮かんでくるイメージです。

 睡眠の深さは脳波の活動パターンによって分類され、睡眠が深くなるにつれ徐波と呼ばれるゆっくりした周期の大きな波形が見られるようになります。脳波は脳の表面に近いところにある神経細胞の活動の同期性に由来すると説明されているため、睡眠の深度が深くなって徐波が増えるということは、より多くの神経が同期をして活動するようになると考えられています。したがって、睡眠の深度が深いほど多くの神経が関与しなければならないより複雑な情報や多くの連携を持った情報が扱われているのだろうと想像できます。

 記憶の分類と睡眠中に整理される情報の種類

ここで、記憶と言われる脳が持っている情報の分類について説明します。記憶はその保持時間の長さから、感覚記憶、作業記憶、短期記憶、長期記憶などに分類されますが、一般的に記憶と呼ばれているのは長期記憶のことを指していることが多いようです。長期記憶には言葉で表現できる「陳述記憶」と言葉では表現できない「非陳述記憶」があります。更に、陳述記憶には経験や出来事などの個人の思い出に関する「エピソード記憶」と化学式や記号、言葉の意味、数式など一般的に知識と言われる「意味記憶」があります。一方、非陳述記憶には身体の動きに関する「手続き記憶」と「プライミング記憶」がありますが、プライミング記憶はここで紹介する記憶のメカニズムとは異なった複雑な原理が関わるので詳しくは説明しません。

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 そこで、長期記憶の代表選手として「エピソード記憶」「意味記憶」「手続き記憶」の3つを取り上げた時、脳が得意な順に並べると
「エピソード記憶」 >「手続き記憶」 > 「意味記憶」
の順になります。脳にとって得意不得意とは、どれだけ多くの神経回路がその記憶を形成するのに必要かということにかかってきます。つまり、意味記憶を形成するにはたくさんの神経細胞の連携が必要になるのです。

 ここで先ほどの睡眠の深さの説明を思い出してください。睡眠の深さは脳波のうち、より多くの神経が関わる徐波の割合で決まるのです。また前回、記憶の塊であるマインドセットの更新は主に睡眠中に行われることを紹介しました。もうお分かりですね。睡眠中にはその深さによってそれぞれ種類の異なった記憶が形成されるのです。

 これまでの研究から、エピソード記憶は主にREM睡眠やステージ2の浅い睡眠で形成され、身体の動きやいわゆるコツといわれる手続き記憶はステージ2の中程度の深さの睡眠時に、そして暗記や意味記憶が関係する学習にはステージ3、4の深い睡眠(徐波睡眠ともデルタ睡眠とも呼ばれます)が必要だという報告がなされています。試験勉強などする場合、一夜漬けするよりもしっかりと深い睡眠をとった方が、本当は効率がいいんですね。

 ここまでおわかりいただけたところで、次回最終回は夢を見る理由と夢分析などについて紹介します。