わかりやすい脳の話 〜夢と記憶と感情と〜 第4話「マインドセットの形成と睡眠」

 レミニセンス現象

 こんな経験はありませんか?

「昨日は何度やってもうろ覚えで何度も単語帳を見なければならなかったのに、一晩明けて今日はなぜかスラスラと思い出せる」
「何度弾きなおしてもつっかかって上手く弾けなかった旋律。今日は一度で弾けてしまった」
など。これらは心理学用語では「レミニセンス現象(レミニセンス=回想)」といって、記憶した直後(正確には「記銘」といいます)よりもある程度時間が経ってからの方がよく思い出せるという現象です。
 レミニセンス現象には原理的にも大きく分けて2種類あるのですが、上のように翌日(一晩寝た後)以降に起こる現象は「バラード・ウィリアムズ現象(Ballard-Williams phenomenon)」と呼ばれる現象です。つまり、記憶の定着には睡眠を経ることが重要だということなのです。
 えっ?一体どういうことなんでしょう?寝ている時って、脳も休んでいるんじゃないのでしょうか?

 睡眠中の脳の働き

 前回、「マインドセット」についてお話ししました。マインドセットとはこれまで生活してきた中で重要な情報(と脳が判断した情報)を集積した記憶の塊だと説明しました。私たちは何かの行動を起こす時に、この記憶の塊でできた仮想世界を参照して、つまり過去の経験からして最も良いと思われることを選択して行動します。生活していると常に新しい情報が脳に入ってくるので、いつもベストな選択をするためにはマインドセットは常に新しいものである必要があるのですが、残念ながら情報を入れながらマインドセットを更新することは難しく、昼間起きている時にはあまり効果的な更新はできないのです。この理由は簡単にいうと、私たちの記憶が単なる個別の情報ではなくて類型化され相互に連携を持つ融合的な情報であるため、一つの情報だけを入れ替えようとしても関連する情報も合わせてごそっと入れ替えて新しい連携を作るというかなり大掛かりな組み替えが必要となるためです。したがって、大掛かりなマインドセットの更新は脳が外からの情報の処理や対応に力を注がなくて済む時、情報が入ってこない時、そう、寝ている時に行われるのです。

 寝ている時、脳の活動が低下する脳の部分と、反対に活動が上昇する部分、寝ていても起きていてもあまり変化がない部分があります。脳は部位によってそれぞれ役割が異なっているのです。寝ている時に活動が大きく低下する部分は意識を形成するのに重要な前頭前野で、大まかにいって起きている時の20-30%ぐらい低下します。逆にいうと前頭前野でさえも睡眠中70-80%は活動しているのです。一方、記憶にとどめる情報の選り分けに必要な重み付けを行う大脳辺縁系や大脳基底核では10-20%活動が上昇します。また、一般的にいう夢を見ている状態では物を見る時に活動する視覚野や音を聞く聴覚野、手足の動きに関わる運動野などの活動が上昇します。図は、寝ている時の脳の活動をfMRIという手法で画像化したものです。活動の状態を見ると、おそらくこの人は夢を見ているのでしょう。

nou4

 このように脳は寝ている時も活動しているのですが、睡眠中に活動が上昇する脳の部位は睡眠の段階によって部位が変わります。脳の部位にはそれぞれ役割分担があって種類の異なる情報を処理しているので、睡眠中もその眠りに深さによってマインドセットを形成するための記憶の種類が異なっていることになります。

 さて、ここまでで脳が寝ている時も働いていること、昼間起きている時とは違った働きをしていることがお分かりいただけた他と思います。次回はいよいよ私たちが夢を見る本当の理由についてお話しします。