わかりやすい脳の話 〜夢と記憶と感情と〜 最終回「私たちが夢を見る本当の理由」

 最終回 私たちが夢を見る理由

 脳は寝ている時も働いています。マインドセットという記憶の塊を最適化するために情報の整理を行っています。この時、いろいろな情報がおそらくランダムに呼び出されて生命の大原則(第3回で説明しました)に沿って自分に必要な情報を取捨選択しているのです。この時、前頭連合野という部分が活動して作業記憶と呼ばれる一時的な記憶(〜数分ぐらいで消えてしまう一時的なもの。夢の内容をすぐ忘れてしまうのはこの記憶がすぐに消えてしまうからです)に呼び出されて必要かどうかが検討されるといわれています。この作業記憶にはランダムないろいろな情報が入っていて、それぞれにはあまり「意味的な」関連はないのです。この状態で目がさめると頭の中にはいろいろな情報が、イメージの形で残っています。このイメージを私たちの「意識」が認識することになり、そのイメージが鮮明に残っていると「ああ、夢を見ていた」となるのです。さらに、第2回で紹介したように脳は都合の良いように情報を結びつけてストーリーを作ってしまう習性があるため、ランダムなイメージを無理矢理結び付けてしまい、しばしば夢が荒唐無稽な話になってしまうわけです。

 つまり夢とは、睡眠中の脳の重要な作業の一部を覚醒した意識が認識し、補完という作業を行った結果であると説明できます。ちょっと表現が難しいでしょうか?この作業は私たちが生き残るために必要なマインドセットを作り上げていくことですが、マインドセットは私たちの経験に基づく情報でありわたしたち自身そのもの、つまり個性や人格形成に関わっているのです。

 もう少し細かい視点で見てみると、寝る前に経験した情報を脳の中だけで再度体験すること、その時にいらない情報は排除していくこと、を行っているといえます。これは生きるためのリハーサルのようなもので、次に同じような状況になった時により効率よく行動するための作業ともいえるわけです(これは、動物を使ったたくさんの実験で証明されています)。さらに、脳内で何度も再体験することによって、例えば辛い体験やトラウマなどに伴う大きな感情の動きをできるだけ小さくしていく、自己治癒的な役割も持っているようです。

夢の情報の持つ意味

  夢の元になっている情報は私たちに必要な情報、つまり気になっている情報がたくさん含まれています。その情報とは、より感情が動いた情報だということは第3回で紹介しました。そうすると楽しかった思い出や苦しかった出来事などが同じくらい夢に出てきても良さそうなものなのですが、どちらかというと、怖かった/苦しい/不安/不思議な夢の方が多いような気がしませんか?これもどうやら本当らしいです。生命の大原則から考えると、プラスの要因よりもマイナスな要因をしっかりと把握してマインドセットを作り上げた方がより生存には有利であるからですね。また、上にも書いたように、辛い感情は夢の中で何度も追体験することで徐々に感情の振れ幅を抑え込めるということもあるので、必然的にそんな夢を見る回数が多くなるのも当然かもしれません。なんといっても怖い夢は起きたあとに印象に残りやすいこともあります。

夢分析で何がわかるの?

夢に出てくる情報は自分自身が気になっていることです。従ってどんな夢を見たかを分析すると、ある程度は自身の無意識の領域について知ることができる可能性があります。ただし、睡眠中の脳の活動はマインドセットの更新であり、その情報は一晩の夢だけでは正確に分析できない場合も多くあります。正確な夢分析を行うには過去の数週間から数カ月、場合によっては幼少期からの経験などを踏まえて行う必要があります。

 とはいっても、夢って気になりますよね。分析の基本は脳の情報処理の原理に沿ったものになります。もっとも簡単な方法は、夢の内容を「アイテム」「シチュエーション」「ストーリー」に分解して行います。

アイテム:夢に出てくるもの、人、場所など
シチュエーション:状況や行動。「食べる」「飛ぶ」「火事」など
ストーリー:話の展開について。

アイテムやシチュエーションは心理的な状態が投影されるといわれています。また、夢に出てくる登場人物や動物、場合によっては物、これらはそれに対して自分が思い描いているイメージの投影です。例えば織田信長が出てきても、それは自分が持っている織田信長のイメージを投影した物で、その織田信長の言動は自分自身の中にあるものです。

 シチュエーションは主にその状況などの潜在的な意味を持つことが多く、例えば「火事」は「燃え上がる」という意味が強く上昇志向的な感情を伴っていると解釈されます。ストーリー展開は脳が持つ補完機能の反映が強く、その時点での自分自身の取捨選択の基準を伴っているといわれています。  ここで気をつけなければならないのは、夢の良い悪いの判断です。夢の中では一般社会の規範はそれほど重要なものではなく、したがってしばしば現実世界の良い悪いとは一致しません。例えば「殺人」。殺す夢、殺される夢は悪夢のように思えますが、後で説明するような身体的は反応(びっしょり汗をかくとか大声を上げて目をさますとか)がなければ、それはどちらかというと良い夢です。夢の中では殺人はその人が一つ高い次元に移るとか、一皮むけるというような意味が強くなります。上に書きましたが殺す場合でも殺される場合でもそれは相手も自分。例えばあるタレントさんが帽子を目深にかぶった人に刺される夢を見て、刺される瞬間に帽子を払いのけるとそれは自分だった、という話を分析することになりました。えっ、コワ〜イ。スタジオの反応でしたが、これはまさに自分自身のこと、自分自身の悪い点に薄々気がついていて、その部分を刺す(刺激するのか、滅却するのかはこの話だけでは判断できませんが)ことで一皮むける、このタレントさんの場合、芸能人として成功するという意味です。同じ方が「織田信長を殺す夢を見ましたが」といっていました。これは自分の中にある織田信長のイメージに通じる行動か感情かをなくすと一皮むけるっていうことですね。  「飛ぶ夢」もよく出てきます。分析のポイントは高いところを飛んでいるか低いところか、なんとか必至で飛ぼうとしているのか悠々と飛べているかで分析結果は異なります。簡単だと思いますが、考えてみてください。  もう一つの注意点として、上に書いた身体的な反応や情動を伴う夢の場合です。睡眠中であっても体の機能は脳でコントロールされています。その状態は無意識下でモニターされているので、夢から覚めた時に手がしびれているとか、胸の上に何かが載っている夢とかは体の不調が睡眠中の脳の作業に干渉した結果であることが多いようです。  夢は無意識からの自分自身へのメッセージともいえます。あまり意識しないと夢を見ていたことも忘れてしまいますが、普通に生活している人であれば夢の元になるイメージは寝ている時の脳の作業として毎晩体験しているのです。良い夢を見て、健康な生活を送りましょう。

〜完〜