わかりやすい脳の話 ~夢と記憶と感情と~ 第3話「脳は何のために働いているか(2)」

 人が生活をしていると、いろいろなものを見て、たくさんの人に会い、様々な経験を重ねて行きますが、その度に情報を類系化して関連づけながら記憶していきます。この情報の集積、つまり記憶の塊をマインドセットと呼びます。マインドセットは人それぞれの経験によって形作られるので、個人個人で違ったものになります。それでは、経験によって蓄積される情報とは一体どんなものなのでしょうか?

マインドセットによる世界の認識

 私たちは人間という生命体です。そのため、「生命の大原則」にしたがって生きています。「生命の大原則」というのは単純に2つ、個の保存と種の保存です。

 つまり、個体としての生命が生き続けられるように行動する事と、種族として生命が続くように行動する事です。脳が情報を蓄積するときにも、その情報を処理して行動を起こすときにも、「生命の大原則」に従った判断をします。このとき脳は生き残るために、より有益かどうかの価値を測ります。たとえば、「日のよくあたる木がたくさんあるところにはおいしい果物がたくさんある」といった食欲を満たす有利な情報や、「ごつごつした岩場で視界が開けているところを先に行くとがけがあり落ちてしまう」といった生命にとって危険となる情報はどちらも生命維持のためには有益な情報となります。このような場合、脳は情報の重み付けを行う必要がありますが、生きるためにプラスの情報の場合には「快(うれしい、たのしい)」、マイナスの情報は「不快(怖い、かなしい)」といった付加的な価値を客観的な情報とあわせて記憶するのです。

 そうなんです、感情というのは生きるために必要な情報の重みを判定する脳のすぐれた機能なのです。コンピュータは生命体ではないので情報を記憶したり処理したりするときに「生命の大原則」の個の保存や、特に種の保存などに縛られません。したがって、「感情」を持つ事は無いでしょうし、よほど特殊なプログラムを作ってみても本物の感情とは違った擬似的なものになってしまうと思われます。

 さて、マインドセットはいわば脳が作る仮想世界のようなもので、脳はこの内なる仮想世界での情報をもとに外の世界で起こる事の予測をしながら司令を出しています。世の中は何が起こるかわかりませんが、私たちは経験によって蓄積されてきた類系型の記憶に基づいて何があってもそれほど戸惑う事無く日々生活ができるのですね。

最初に説明した脳の間違いというのはそれまでに蓄積された膨大な記憶の塊、経験に基づいて脳が判断した結果がたまたまその時の状況に合わなかったのにすぎません。

 このように考えると、脳は単なる記憶装置ではなく、生命を維持するための情報蓄積処理装置といえるでしょう。 脳が何のために働いているかもうわかりますね。生命を維持するために働いているのです。コンピュータとは大きく違いますね。

 次回はこのマインドセット形成と睡眠、夢の関わりについて説明します。

名古屋大学環境医学研究所脳機能分野  澤田誠